モーテルについた時は、もう22時をまわっていた。
アメリカ西海岸、ハリウッドで音楽イベントを開催したあと、そのまま南下してメキシコまでやってきた。
国境を越える時、メキシコへの入国は素通りと言ってもいいほど、スムーズだった。
しかし、反対車線には、長蛇の列、である。
アメリカ入国を待つ車と、車に群がる売り子。
その光景は、互いの国に隔たる、大きな溝を表しているように見えた。
メキシコとアメリカの国境付近。
今回の旅は、アメリカで音楽イベントを開催した1回目の旅だった。
当時、日本で音楽イベントを主催していた僕達が「アメリカに日本を見せつけてやろう!」という意気込みで仕掛けたものだ。
日本からスペシャルゲストが来るぞと、周辺の大学をまわり、宣伝し、結局250人近い集客を実現することが出来た。
アメリカの音楽イベントには特に憧れを抱いていて、マイアミで行われるULTRAや、ネバダ州の砂漠のど真ん中で開催されるアートの祭典、バーニングマンに夢を見ていた。
憧れていた規模には及ばなかったけれど、たくさんの仲間と一致団結し成し遂げた、僕らにとっての、小さな、そして最高に楽しい偉業だった。
会場の様子。
楽しい夜は続く。
「すべての偉業には始まりがある。しかし最後までやり続けなければ真の栄光はない。」
これは、1500年代に活躍したフランシス・ドレークというイギリスの軍人の言葉だ。
今回の挑戦は、まさに偉業の始まりだったし、最後までやり続ける価値のあることだと信じていた。
何か自分たちにとって大きなことを成し遂げると世界が変わる。
アメリカに入国した時と、全てを終えてメキシコに入国した時とでは、心の在り方がまるで別物だった。
成し遂げたぞ、という自信と達成感が心を満たしている。
もう、世界にやれないことは無いんじゃないかと、錯覚してしまうほどだった。
それはそれで、幸せな錯覚なんだと思う。
モーテルのベッドに座り、みんなでコロナビールをあける。
途中の砂埃の舞う市場で買った、今回のアフターパーティーとしては、少しばかり安いビールに思える。
だが、身の丈に合っていたし、なによりチームの仲間で、今回の想いを語りながら飲むビールは格別の味がした。
アフターパーティーの少し前。
そのまま外に出て、ローカルな音楽イベントに参加し、朝まで踊った。
綺麗なドレスも着ていなければ、特段オシャレな会場でもない。
けれど、僕達のあらゆる幸福という幸福は、全てがそこにあった。
達成した、成し遂げたという充実感は、まるで麻薬だ。
それが、最高のメンバーと一緒だったらなおさらだ。
何か、今まで生きてきた自分の命が、さらに洗練され、昇華するように感じる。
達成感という最高の快楽と一緒に、大きな自信と成長をくれる。
人は、何かを達成し続けることで、心も思考も成長していく。
成し遂げたことが、限界よりも大きなことであるほど、大きな成長を遂げる。
今まで持っていた自分自身や、感じていた世界の見え方が一変するほどに。
行動出来る範囲は広がって、たくさんの在り方を心が受け入れられるようになる。
自信と共に、はっきり誰かと話せるようになって、誰かの目を真っ直ぐみられるようになる。
お金よりも、他の何よりも、自分の成長が何よりの報酬だった。
自信を持つことが出来なかった人ほど、思い切って挑戦すべきだと思う。
人と話すことが苦手で、世界にどこか怯えている人ほど、踏み出すと強かったりする。
僕もまた、そんな人間だった。
誰かとのコミュニケーションも、社会で仕事を続けていくことも苦手だった。
全てが街灯さえない真っ暗な夜の海みたいに見えた。
どこまでも続いていて、恐ろしく、終わりがない。
自分が持っていないものを手に入れたかった。
自信を持って生きていきたかった。
だからこそ、挑戦と達成を繰り返し、少しずつ自分をまともにしてあげたのだ。
自分への信頼や自信は、挑戦と達成によって作り出される。
スパイダーマンとワイン。
ほんの少しだけ勇気を持って、目を閉じてもいいからやってしまったらいい。
一度、何かを達成してしまったら、必ず次もやりたくなる。
何度も「もう絶対やらない」なんて言いながら、次もまた挑戦を続けている自分がいた。
それは、まるで、中毒症状にも似ている。
挑戦と達成で自分自身が成長していく感覚を、忘れられないからだ。
中毒と言っても、決して悪いことなんかじゃない。
この世で一番、自分を成長させてくれる連鎖の始まりにすぎない。
自分の成長への快楽だけには、依存してもいいんじゃないかなと思う。
イベントの会場から出ると、メキシコのビーチは暗く、夜に沈んでいた。
朝は、まだまだ遠いらしい。
あちこちから聞こえてくる重低音と波の音が、どこまでも心に染み渡った。
ビールを片手に散歩する真っ暗な夜の海が心地よく、いつまでも続いて欲しいと思った。
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